日本の酪農業界は、現在かつてない深刻な危機に直面しています。2024年10月、全国の酪農家戸数が初めて1万戸を割り込み、9960戸にまで減少しました。この数字は、わずか5年前の2019年4月と比較して約25%もの減少を示しています。
酪農家の経営状況は極めて厳しく、中央酪農会議の調査によると、83.1%の酪農家が経営環境を「悪い」と感じています。さらに深刻なのは、58.9%の酪農家が赤字経営に陥っているという事実です。この状況下で、約半数(47.9%)の酪農家が離農を検討しているという結果が出ています。
この危機的状況の背景には、複合的な要因があり、円安(91.8%)、原油高(68.4%)などが主な要因として挙げられており、特に、飼料費や農機具費、光熱水料などの生産コストの上昇が酪農家の経営を圧迫しています。
さらに、新型コロナウイルスの影響やロシアのウクライナ情勢による世界的な資材・燃料の高騰も、日本の酪農業界に大きな打撃を与えており、これらの要因が重なり、酪農家は生産コストの上昇と収入の減少という二重の苦境に立たされています。
この状況が続けば、日本の酪農生産基盤が崩壊し、食料安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性があり、国内の牛乳・乳製品の安定供給が脅かされるだけでなく、地域経済や環境保全にも大きな影響を与える可能性があります。
そこで、本記事では、酪農家が赤字な理由、酪農がやばいと言われている理由についてさらに詳しく掘り下げていきたいと思います。
赤字経営の主な要因
日本の酪農業界は、複合的な要因により経営危機に直面しています。最も大きな影響を与えているのが飼料価格の高騰です。2020年10月から2023年1月にかけて、配合飼料の価格が約1.5倍に跳ね上がり、1トンあたり約10万円に達しました。日本は飼料の大半を輸入に依存しているため、国際情勢の変動に極めて脆弱な状況にあります。
さらに、子牛販売価格の下落も酪農家を直撃しています。91.7%の酪農家が子牛販売価格の下落を経営悪化の要因として挙げており、2022年5月以降、肉用子牛の価格が下落傾向にあり、オス子牛や交雑種子牛の販売による副収入が縮小しています。
燃料費・光熱費の上昇も酪農家の経営を圧迫しています。85.4%の酪農家が原油高の影響を受けており、エネルギーコストの上昇が生産コスト全体を押し上げています。
これらの要因が重なり、98.7%の酪農家が生産コストの上昇を、96.2%が収入の減少を実感しています。その結果、58.9%の酪農家が赤字経営に陥り、約半数(47.9%)が離農を検討する事態にまで至っています。多くの酪農家が借入金を抱え、86.0%の酪農家が借入金があると回答し、そのうち17.0%は1億円以上の借入金を抱えています。
酪農家の減少と影響
酪農家の減少は、日本の農業と食料安全保障に深刻な影響を及ぼしています。最新の統計によると、2024年10月時点で全国の酪農家戸数が初めて1万戸を割り込み、9,960戸にまで減少しました。これは前年同月比で5.7%の減少であり、2005年の調査開始以来最低の水準です。
減少の背景
この急激な減少の背景には、以下のような要因があります。
- 経営悪化: 2022年の調査では、生産コストが過去10年間の平均より18%上昇した一方、収入はほぼ横ばいでした。その結果、酪農家の所得は10年間の平均より60%も減少しています。
- 赤字経営: 2024年の調査では、58.9%の酪農家が赤字経営に陥っていると回答しています。
- 離農の検討: 約半数(47.9%)の酪農家が離農を考えていると回答しています。
減少がもたらす影響
要因 | 詳細 |
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農地の保全と利用 | 酪農家の減少は、牧草地や飼料用作物の栽培地の減少につながり、農地の荒廃や有効利用の低下を招く可能性があります |
地域経済への打撃 | 酪農は関連産業も含めて地域経済を支える重要な産業です。酪農家の減少は、飼料供給業者、乳業メーカー、農機具販売店など関連産業にも影響を及ぼし、地域全体の経済的衰退につながる恐れがあります |
地域活動の維持の難しさ | 酪農家は地域社会に重要で、その減少は地域のコミュニティ活動や伝統行事の維持を困難にする可能性があります |
牛乳・乳製品の生産縮小 | 酪農家の減少は直接的に国内の牛乳・乳製品の生産量減少につながります。これは学校給食への供給や消費者の食生活に影響を与える可能性があります |
食料安全保障への影響 | 国内生産基盤の縮小は、輸入依存度を高め、国際情勢の変化や災害時の食料供給リスクを増大させる可能性があります |
牛乳が売れない理由
牛乳の消費量が減少している理由は、まず、消費者の健康志向の高まりが大きな影響を与えています。特に乳糖不耐症の認知度が高まり、牛乳を避ける人々が増えています。また、植物性ミルクや代替品への関心が高まっており、これらの製品が市場に浸透することで、牛乳の消費量が減少しています。
さらに、ライフスタイルの変化も消費に影響を与えています。特に若年層では牛乳を飲む習慣が薄れ、他の飲料に移行する傾向が強まっています。加えて、日本の少子高齢化が進む中で、全体の消費者数自体が減少していることも無視できません。
価格の上昇も牛乳の消費に影響を与えており、原材料費や飼料価格の高騰、さらには気候変動による影響が生産コストを押し上げています。また、酪農業界自体も高齢化や後継者不足による労働力問題を抱えており、これらの経済的負担が最終的に消費者価格に反映されています。
このような状況下で消費者の購買意欲は低下し、牛乳の消費量は長期的に減少しています。実際、日本の牛乳消費量は1996年に505万キロリットルをピークに、その後減少傾向が続き、2013年には350万キロリットルまで落ち込んでいます。
結論
日本の酪農業界は深刻な危機に直面していますが、政府、酪農家、消費者が一体となって取り組むことで、持続可能な酪農業の実現が可能です。その中でも、消費者は「コップ1杯多く牛乳を飲む」という小さな行動から始め、将来的に日本の食料安全保障と酪農文化を守っていけたら良いですね。
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